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東京高等裁判所 昭和39年(行コ)15号 判決

控訴人 東京国税局長

訴訟代理人 横山茂晴 外三名

被控訴人 株式会社 三橋

主文

原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。

被控訴人の第一次請求を棄却する。

被控訴人の当審における予備的請求を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

第一、第一次請求について。

一、被控訴人が昭和二六年一月二五日設立され、金属製玩具の製造販売を目的とする株式会社であること、被控訴人が昭和二七年一一月二九日浅草税務署長に対し昭和二七事業年度の法人税(本件法人税)につき所得金額を二九万五、一〇〇円として確定申告をしたところ、浅草税務署長が昭和二七年一二月二一日所得金額を七三万六、七〇〇円とする旨の更正処分(当初更正処分)をなし、次いで昭和三二年一一月二七日所得金額を一一七万八、二〇〇円とする旨の再更正処分(本件再更正処分)をなしたこと、被控訴人が昭和三二年一二月一八日浅草税務署長に対し本件再更正処分につき再調査請求をしたが、昭和三三年三月一二日請求棄却の決定がなされ、同月一七日右決定通知書を受領したので、同年四月五日控訴人に対し審査請求をしたところ、控訴人が昭和三四年三月三一日請求棄却の決定(以下「本件審査決定」という。)をなし、被控訴人が同年四月一二日右決定通知書を受領したことは当事者間に争いがない。

二、被控訴人は「本件法人税の確定申告は青色申告書によつたのであるから、所得金額等を更正した場合にはその通知書に理由を付記し(法人税法第三二条)、また、更正に関する審査請求を棄却する決定にもその通知書に理由を付記しなければならず(同法第三五条第五項)、右各理由は承認した帳簿にもとづき具体的に明示することを必要とするのに、本件再更正処分通知書にはなんら理由の付記がなく、また、本件審査決定通知書に付記された理由は被控訴人の請求を棄却すべき根拠を具体的に明示していないから、いずれも違法である。」と主張するのに対し、控訴人は「被控訴人の本件法人税の確定申告は青色申告書によつたものではないから、更正および審査決定の通知書に理由を付記する必要はない。」と争うので、本件法人税の確定申告が青色申告書によつたものであるかどうかを検討する。

三、いわゆる青色申告の制度は、自己の所得金額および税額を自ら正確に計算し自主的に申告して納税するものである。そして、この申告納税方式のもとにおいては、申告にかかる所得金額および税額が適正であることが不可欠の前提をなすところがら、一定種類の帳簿書類を備えこれに一定の記載事項を記録した法人が青色申告書により申告する場合には、その法的効果として、当該法人に所得計算および納税手続上種々の特典が与えられる。ところで、法人が青色申告書によつて申告をするには、まず青色申告書を提出することについて政府の承認を受けなければならず(当時施行中の法人税法《以下単に「法人税法」という。》第二五条第一項)、右承認を受けようとする法人は、原則として、青色申告書を提出しようとする事業年度開始の日の前日までに一定の事項を記載した申請書を提出すべく(同条第三項)、政府は右申請書の提出があつた場合には、右申請に対し承認もしくは却下のいずれかの措置をとらなければならない(同条第四項ないし第七項)。すなわち、法人が青色申告の法的効果を享受するには、青色申告書提出承認申請書の提出、政府の承認、青色申告書の提出という段階的手続が順次履践されなければならないのである。

本件において、(1) 被控訴人が昭和二七事業年度開始の日の前日である昭和二六年九月三〇日までに青色申告書提出承認申請書を提出しなかつたことは被控訴人の自認するところである。そして、〈証拠省略〉をあわせ考えると、被控訴人は昭和二七年九月二四日浅草税務署長に対し自昭和二七年一〇月一日至昭和二八年九月三〇日事業年度分について青色申告書提出承認申請書を提出したが、これは被控訴人がはじめてなした青色申告書提出承認申請書の提出であることが認められる(右認定を妨げる証拠はない。)。ところで、法人税法第二五条第三項が青色申告書提出の承認を受けようとする法人が申請書を提出すべきものとしたのは、当該申請の趣旨を明瞭ならしめるとともに、申請に従う後行手続にる租税債権の具体的実現の前提を明確にしておく必要にもとづくものであるから、青色申告書提出承認申請は必らず法定の記載事項を記載した申請書を提出してしなければならないものと解すのが相当である。したがつて、昭和二七事業年度分について右申請書の提出がない本件においては、同年度分について被控訴人より有効な青色申告書提出承認申請があつたものということはできない。この点に関し、被控訴人は「昭和二六-七年当時は青色申告制度が発足して間もない頃で、税務官庁側では納税者に青色申告書の提出を奨励する趣旨で青色申告書提出承認申請書の提出の手続を履まないでなした青色申告書の提出をそのまま受理し、後日青色申告書提出承認申請書を追完させる取扱をしていた。」旨主張し、〈証拠省略〉中には右主張に一部照応するような部分があるが、右供述部分は〈証拠省略〉に照らし信用できず、他に右主張事実を肯認すべき証拠はない。また、法人税法基本通達三三〇は、青色申告書を提出することについて承認を受けた法人がその承認を取り消されるまではその承認の効力は失われないことおよびもし承認を受けた事業年度後の各事業年度毎に承認申請書の提出があつた場合には、その申請書は法第二五条第三項所定の申請書には該当しないとしているが、右のように数度の申請書が提出されることを予想した通達があるからといつて、被控訴人が青色申告書提出承認申請書を提出した昭和二八事業年度の前年度分についても同じく申請書を提出したと推認すべき根拠となしえないことはいうまでもない。

(2)  次に、青色申告書提出承認申請に対する承認は、単に税務官庁の内部においてこれを決定するのみでは足らず、必らず当該法人に対して通知しなければならない(法人税法第二五条第八項)。しかるに、本件において、被控訴人は昭和二七事業年度分について青色申告書を提出することについての承認通知を受けた事実およびその時期等につきなんら主張をしていないのみならず、該事実を肯認すべき証拠はない。もつとも、浅草税務署長が、昭和三二年一一月二七日(本件再更正処分と同日)被控訴人の備え付けた帳簿書類に取引の一部を陰蔽し、当該帳簿書類の記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる不実の記載があるとの理由により、被控訴人に対する昭和二七事業年度分についての青色申告書提出承認を取り消し、昭和三二年一一月二八日被控訴人にその旨通知した事実は当事者間に争いがなく、右事実によれば、恰かも、昭和二七事業年度分について青色申告書提出承認があつたもののようにみえる。しかし、右事実のみでは、承認が法人税法の予定する当該事業年度終了の日までになされたかどうか確定しえないのみならず(法人税法第二五条第六項は、青色申告書の提出があつた場合において当該事業年度終了の日までに当該申請の承認または却下がなかつたときは、当該申請の承認があつたものとみなす旨規定しているから、申請の承認は当該事業年度終了の日までになされることが法の予定するところである。したがつて、右条項による承認の擬制がなされた以後に申請を承認するごときは法律上まつたく無意味な措置である。)、前記青色申告書提出承認取消処分に対しては被控訴人から控訴人主張のとおり再調査請求および審査請求がなされ、控訴人が昭和三四年三月三一日、昭和二七年分についてはもともと青色申告書提出承認がなかつたのに承認の取消をしたことは失当であるとして、右承認取消処分を取り消す旨の審査決定をなし、同年四月一二日被控訴人に対し右決定を通知し(上記事実は当事者間に争いがない。)、税務官庁自ら右承認取消処分の瑕疵を是正しているのであるから、右承認取消処分がなされたことのみを根拠にして昭和二七事業年度分について青色申告書提出の承認があつたものと断ずることはできない。

(3)  次に、いわゆる青色申告は青色の申告書によつてなすべきことは前述のとおりである。ただ、申告書の色分自体は、もつぱら税務官庁側の事務上の便宜を計る趣旨にすぎないから、青色申告書提出承認を受けた法人(以下「青色申告法人」という。)が白色の申告書のみやすい箇所に「青色」と表示するなどしてこれを青色申告書として提出し、あるいは、青色申告書提出承認を受けていない法人(以下「白色申告法人」という。)が青色の申告書のみやすい箇所に「白色」と表示するなどしてこれを青色申告書でない申告書として提出することも許されないものではない。しかるに、〈証拠省略〉によれば、被控訴人は本件法人税の確定申告にあたり青色申告書を用いないで、市販の白色の申告書用紙(株式会社日本法令様式販売所製)を用い、しかも、当該申告書にはこれを青色申告書として提出する趣旨の表示はまつたくなされていないことが認められるから(右認定に反する〈証拠省略〉は信用できない。)、本件法人税の確定申告は青色申告書によらないものと認めるべきである。なるほど、〈証拠省略〉によれば、浅草税務署は所轄地内の法人に申告書用紙を配布するにあたり、用紙不足のため、青色申告法人に対し白色の申告書用紙を、白色申告法人に対し青色の申告書用紙を配布することがあり、また、申告書用紙は市販のものを用いることも許していた等の事情から、青色申告法人が白色の申告書によつて申告をする等申告書の色分による使用区分は必らずしも厳格に遵守されえない実情にあつたことが看取されるが、青色申告であるかそれとも白色申告であるかは法人の利益に至大の影響を及ぼす事柄であるから、申告書用紙の色が実質に合致しないときは、法人が自らの責任においてその実質を明示すべきであり現に、〈証拠省略〉によると、被控訴人自身、昭和二六年九月二三日に自昭和二六年一月二五日至昭和二六年七月二四日事業年度の中間申告をするにあたり、欄外に「白色」と表示した青色の申告書用紙を用い、これを白色の申告書の代用とした事実が認められる。)、かかる明示方法を講ずることなく漫然申告をした場合には、申告書の外形に則した取扱を受けることもやむをえないといわなければならない。また、〈証拠省略〉によれば、被控訴人が本件法人税の確定申告をした際に、被控訴人の用意した申告書控に浅草税務署の収受印の押捺を受けたが、右申告書控は青色の申告書用紙を用いていたことが認められるが、さらに、〈証拠省略〉によると、納税者の用意した申告書控に収受印を押捺するという税務署の措置は、税務署が、申告書自体の色分に関係なく、もつぱら、申告書の提出、その時期、内容等を後日に備えて明確にしておきたいという納税者の便宜を計つてするサービス業務にすぎないことが認められるから(上記各認定を妨げる証拠はない。)、浅草税務署が前認定のような措置をとつたからといつて、白色の申告書を用いてなした被控訴人の確定申告を青色申告書によつたものと認めることはできない。

以上(1) ないし(3) に説示したところによれば、被控訴人の本件法人税の確定申告は、予め青色申告書提出承認申請書を提出して承認を受けていない点からいつても、青色申告書を提出してなしたものでない点からいつても、とうてい青色申告であると認めることができない。したがつて、本件再更正処分の通知書に理由が付記されていないこと、本件審査決定に付記された理由が具体的でないことを事由に右処分および決定が違法であるとする被控訴人の主張はその前提を欠き、失当たるを免れない。

三、被控訴人は「本件再更正処分は確定申告書の提出期限たる昭和二七年一一月三〇日から三年を経過した日以後になされたものであるから、法人税法第三一条の二第一項本文の規定に違背する違法があり、したがつて、これを適法とした本件審査決定も違法である。」と主張するに対し、控訴人は「被控訴人は詐偽その他不正の行為により法人税を免れたものであるから、前記条項但書の規定により、前記三年の期間経過後にした本件再更正処分は違法ではない。」と争うので、判断する。

(一)  本件再更正処分が本件法人税の確定申告書提出期限たる昭和二七年一一月三〇日から三年を経過した日以後である昭和三二年一一月二七日になされたことは前記一の事実から明らかである。

(二)  よつて、被控訴人が詐偽その他不正の行為により法人税を免れた事実の有無を検討するに、〈証拠省略〉をわせ考えると、次の事実を認めることができる。

被控訴人は、昭和二七事業年度の期首直後にあたる昭和二六年一〇月一九日、株式会社富士銀行鳥越支店に妻吉田愛子名義(吉田は妻の婚姻前の氏)をもつて普通預金口座を開き、同日金額五万四、〇〇〇円、振出人Hokkaido caowia 支払人株式会社北海道拓殖銀行の小切手一通および現金をもつて合計二〇万四、〇〇〇円を預け入れたのを初めとし、爾後継続的に、右口座に現金、小切手等を預け入れた。被控訴人は昭和二七年七月七日一旦右預金契約を解約し、同日直ちに株式会社富士銀行浅草橋支店に預金口座を移し替えたうえ、さらに預金を継続したが、昭和二七事業年度の期末直前である昭和二七年九月二二日現在において、右預金口座の受入金額は合計二一六万二、六四二円、支払金額は合計一七二万一、一六二円、差引残高は四四万一、四八〇円に達しており、右受入金額中すくなくとも合計五〇万二、九〇三円は、被控訴人がその取引先に対し売却した商品の代金決済のため、取引先から振出交付を受け、または、いわゆる廻り小切手として交付を受けたものを預け入れたものであり(ただし、別表(8) は被控訴人がその買受代金の割戻金決済のため振出交付を受けたもの、(14)は為替手形によつて支払を受けたものを預け入れたものである。)、その内訳は別表のとおりである。しかるに、被控訴人は故ら当該取引を正確に会社の正規の帳簿に記載せず、本件法人税の確定申告にあたつて右五〇万二、九〇三円の収入金を所得金額に計上せず、税務官庁の調査に対しても、預金名義人が吉田愛子であることに籍口して右金員が前記取引と関係のあることを極力否認していた。

このように認められる。〈証拠省略〉また、被控訴会社代表者三橋岩次郎は、原審(第一、二回)および当審において、「吉田愛子名義の前記預金は同女が昭和一二年三橋岩次郎の許に嫁いできたとき持参した二、〇〇〇円の金員を預け入れたのが最初であり、これに三橋岩次郎り個人所得が漸次預金されたものである。右預金口座に預け入れた小切手は、三橋岩次郎が同業者の依頼にもとづき割引をして取得したもの、あるいは、被控訴人の営業上の必要に応じて資金を貸与した見返りとして被控訴人が他から取得した小切手の譲渡を受けたものである。」旨供述する。しかし、〈証拠省略〉によれば、前記預金口座には前記昭和二七年九月二二日以後も継続的に現金あるいは小切手の預入がなされ、昭和三〇年九月一九日までの間における各期末残高は、

自昭和二六、一〇、一至昭和二七、九、三〇事業年度  四四万一、四八〇円

自昭和二七、一〇、一至昭和二八、九、三〇事業年度  七二万八、〇九二円

自昭和二八、一〇、一至昭和二九、九、三〇事業年度 一五七万八、四一八円

自昭和二九、一〇、一至昭和三〇、九、三〇事業年度 一九一万八、二〇一円

と逐年増加の一途を辿つていることが明らかであるところ、〈証拠省略〉によれば、昭和二七-八年当時三橋岩次郎の年間収入は被控訴会社の取締役報酬と被控訴会社に対する賃貸家屋の賃料とを含めて年間五-六〇万円であり、他に特段の収入がなかつたこと、また本件弁論の全趣旨によれば、三橋岩次郎は当時四人の扶養家族を擁していたことをそれぞれ認めることができるから、前記預金の増加が三橋岩次郎の個人所得の累積によるものとはとうてい認め難いこと、〈証拠省略〉によれば、三橋岩次郎は控訴人がなした調査に対し、前記預金の由来につき、被控訴人ら玩具販売業者が結成していた玩具相互組合が毎年一回行う特売による利益金を顧客の観劇招待等の費用に充てるため一時保管することを、三橋岩次郎に委託し、三橋岩次郎においてこれを前記預金口座に預け入れたものである旨弁明していたことが認められるが、被控訴会社代表者三橋岩次郎は、本件訴訟になつてからは、原審および当審を通じ、かかる趣旨の供述をしていないこと(このことは記録上明らかである。)はすこぶる不自然であること等の諸点を斟酌し、かつ、この段の冒頭に掲記した各証拠と対比すると、前摘記の被控訴会社代表者三橋岩次郎本人の供述は直ちに信を措くことができない。そうだとすれば、被控訴人は、浅草税務署長を欺罔しその他不正の行為をなす積極的意思を有していたものと認定せざるをえない。他に、右認定を左右するに足りる証拠はない。

そして、前認定事実によれば、被控訴人が本件法人税の確定申告にあたり前記五〇万二、九〇三円の収入金を所得金額中に計上せず、これにより納付すべき正当の税金の納付義務を過少ならしめて不足税額を免れたものと認めるのが相当であるから、法人税法第三一条の二第一項但書の規定にいう「詐偽その他不正の行為により法人税を免れ」た場合に該当することが明らかである。したがつて、浅草税務署長が同条項本文所定の三年の期間経過後に本件再更正処分をなしたことは違法ではない。

(三)  被控訴人は「たとえ納税義務者に詐偽の事実があつたとしても、納税義務者の申告および当初更正にかかる所得金額および税額を全面的に変更し改めて右金額を更正するごとき再更正は法人税法第三一条の二第一項本文所定の三年の期間経過後においてはこれをなしえないから、本件再更正処分はこの点において違法である。」旨主張する。

申告納税方式をとる法人税においては、まず納税義務者がなす申告により法律上客観的に定まつた納付すべき税額が具体的に確定されるのであるが、税務官庁において右申告にかかる所得金額または税額が調査したところと異なるときはこれを更正してさらに税額を具体化し、右更正により具体化した金額になお過不足額があると認めるときは再更正を行うという仕組がとられている。右の納税義務者の申告、税務官庁の更正および再更正はそれぞれ別個独立の行為として併存し、後の更正等の効力はこれらの処分によつて増加しまたは減少した部分の税額に関してのみ生ずるが(たとえば増額更正の場合には増差税額に関する部分についてのみ効力を生ずる。)、もともと申告、更正および再更正は一個の納税義務の内容の具体化のためになされるものであるから、前の申告等に続いて後の更正等がなされることにより、全体として一個の納税義務が具体的に確定されることとなるのである。

本件において、被控訴人の昭和二七事業年度の所得金額は、

確定申告においては     二九万五、一〇〇円

当初更正処分においては   七三万六、七〇〇円

本件再更正処分においては 一一七万八、二〇〇円

とそれぞれ確認されたことは前記一に説示したとおりであり、〈証拠省略〉によれば、被控訴人の納付すべき税額は、

確定申告においては     一二万三、九四二円

(中間申告により確定した分一二万五、一八〇円を除けば一、二三八円)

当初更正処分においては   一八万五、四七〇円

(該処分によつて確認された前記所得金額にもとづいて算出された税額三〇万九、四一四円から前記確定申告にかかる税額を差し引いた金額一八万五、四七二円の一の位を切捨てた金額)

本件再更正処分において   一八万五、四三〇円

(該処分によつて確認された前記所得金額にもとづいて算出された税額四九万四、八四〇円から前記確定申告および当初更正にかかる各税額の合計額三〇万九四一〇円《一の位は切捨》を差し引いた金額)

とそれぞれ確定されたこと(ただし、浅草税務署長は本件再更正処分において被控訴人が詐偽の方法により収入金から除外した金額を、吉田愛子名義の普通預金口座の受入金額中の前認定の五〇万二、九〇三円のうち昭和二七年九月二二日《昭和二七事業年度の期末直前》現在における残高にほぼ相当する四四万一、五〇〇円の限度で認定し、これを当初更正処分で確認した所得金額七三万六、七〇〇円に加算して一一七万八、二〇〇円なる金額を確認するにとどめ、被控訴人に有利な取扱をした。)を認めることができ、右認定を妨げる証拠はない。叙上認定した確定申告、当初更正処分および本件再更正処分の効力および相互の関係については、当初更正処分は確定申告と、本件再更正処分は確定申告および当初更正処分とそれぞれ別個独立の行為としてなされたもの(すなわち、本件再更正処分は被控訴人のいわゆる「追加決定」として、独立になされたもの)であり、当初更正処分は増差税額一八万五、四七〇円、本件再更正処分は増差税額一八万五、四三〇円に関する部分についてのみその効力を生じたものであるが、これとともに、確定申告、当初更正処分および本件再更正処分は一体となつて被控訴人の昭和二七事業年度の所得金額を一一七万八、二〇〇円と確認し、納付すべき税額を四九万四、八四〇円と確定したものと理解することができる。確定申告、本件更正処分および本件再更正処分の効力および相互の関係を当初更正処分が確定申告にかかる所得金額および税額を変更し、あらためて当該金額を確認、確定し、さらにこれを本件再更正処分が全面的に変更し、あらためて所得金額および税額を確認、確定したものと解することは当裁判所の採らないところである。これに反する見解に立脚して本件再更正処分の違法をいう被控訴人の前記主張は失当である。

(四)  被控訴人は「本件再更正処分当時被控訴人が詐偽により法人税を免れた事実が判明していたわけではなく、右事実は被控訴人が本訴を提起して本件再更正処分の違法を主張するに及んで控訴人において調査してようやく判明するにいたつたものであるから、法人税法第三一条の二第一項本文所定の三年の期間経過後になされた本件再更正処分は違法である。控訴人が右条項但書の規定を援用して本件再更正処分は適法であると主張することは権利の濫用に当る。」と主張する。

〈証拠省略〉をあわせ考えると次の事実を認めることができる。

浅草税務署法人税課の職員が昭和三二年二-三月頃被控訴人の倉庫新築の資金繰り調査に赴いた際、被控訴人が取引先と思料される者から受け取つた相当金額の小切手等を前記吉田愛子名義の普通預金口座および被控訴人の元社員平川辰夫名義の株式会社富士銀行鳥越支店の普通預金口座(後に、同銀行浅草橋支店の普通預金口座に移し替えられた。)に預け入れている事実が現われたが、被控訴会社代表者三橋岩次郎が当該預金が会社取引と関係あることを否認するので、前記鳥越支店、浅草橋支店について小切手の振出人、支払銀行等を調べた結果、前記預金口座中に前認定の五〇万二、九〇三円を含む被控訴人の商品売上代金と認められるものが預け入れられている事実をつきとめ、ここに被控訴人が詐偽により法人税を免れた事実が判明するにいたつたので本件再更正処分がなされた。控訴人は、昭和三四年六月一二日に本訴が提起された後(本訴提起の日は記録上明らかである。)である昭和三五年八・九月中前記小切手の振出人等について調査し、それらの者から陳述書を徴し、聴取書を作成したが〈証拠省略〉はこれらの書類の一部である。)、これは本件再更正処分に瑕疵があるとする被控訴人の主張を反駁するため、かつて調査確認されていた被控訴人の詐偽の事実についていつそう確実な証拠を法廷に提出する必要からなしたことにすぎない。

このように認めることができる。右認定に反する〈証拠省略〉は前掲証拠に照らし信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。してみれば、右認定事実と相容れない事実を前提とする被控訴人の前記主張は失当とするほかない。

四、以上の次第であるから、本件再更正処分および本件審査決定の違法を主張してその取消を求める被控訴人の本件第一次請求は理由がない。

第二、予備的請求について

被控訴人の本件予備的請求は本件再更正処分によつて確定した本件法人税の増差税額一八万五、四三〇円に重加算税九万二、五〇〇円を加えた二七万七、九三〇円の徴収権の不存在確認を求めるものであるが、右は本件再更正処分によつて具体的に確定した租税債権の存在しないことの確認を求めることを目的とするものにほかならないから、当該債権の帰属主体たる国を相手方とすべきであり、控訴人は右訴訟の被告適格を欠くものといわなければならない。したがつて、本件予備的請求は不適法である。

第三、結論

叙上説示したところによれば、本件再更正処分および本件審査決定の取消を求める被控訴人の本件第一次請求は理由がないからこれを棄却すべきである。右請求を認容した原判決は不当であり、本件控訴は理由がある。また、本件再更正処分によつて確定した租税債権の不存在確認を求める被控訴人の本件予備的請求は不適法であるからこれを却下すべきである。

よつて民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 川部行男 川添利起 蕪山厳)

別表〈省略〉

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